ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。
哺乳類にとって、親離れ子離れはなぜ必要か
前回、「サルにも離乳する頃に一種の反抗期がある」というお話をしましたが、今度は思春期(オトナになる直前)の反抗期についてもご紹介したいと思います。
サルを含め、多くの哺乳類はオトナになる(性成熟する)前に、雄か雌、もしくは両方のコドモが、母親のもと(生まれた場所)を去って、新天地へと旅立ちます。これは、生まれた場所にいつまでも留まっていると、親・兄弟姉妹など血のつながった個体と近親交配してしまう可能性があるので、それを避けるための自然の仕組みです。
見知らぬ異性に惹かれて(あるいは自然にあふれてくる衝動があって)、コドモがふらっと出ていくこともありますが、時には母親に激しく攻撃されて追い出されることもあります。
これも、母親の行動(コドモたちが新しい土地に行って子孫を残すよう促した母親の遺伝子が、そうではない母親の遺伝子より集団の中で広まったから)と、コドモの行動(知らない土地に行くことは生き残れないリスクが高い)という、「(親が)子孫を残すことにつながる行動」と「コドモ自身が生き残ろうとする行動」がせめぎあう、親子の投資をめぐる駆け引きー一種の反抗期とも言えるでしょう。
サルの「幼なじみの恋」は成就しない
基本的にサルを含む哺乳類は、オトナになる頃には、血縁がある、年上の異性を避けるようになります。
ヒトで思春期の女の子がお父さんを避けるようになったり、男の子がお母さんに対して無愛想な態度をとるようになるのも、実は根底には同じようなメカニズムが働いています。
小さな時から身近にいる異性は、血縁者である可能性が高いので、そうした異性に対して生理的な嫌悪感を抱くことは、近親交配を避ける上で重要です。ヒト以外のサルでも同じような現象が知られていて、血縁のない個体同士でも、コドモの頃から一緒に育つと、オトナになってから交尾しません。
サルはこうした異性を避ける気持ちが強くなると、親のもとを離れて新天地に旅立ちます。一度親のもとを離れると、二度と戻ることはありません。
ヒトが他のサルと違うところは、思春期の反抗期が過ぎれば、オトナになってからも親子のつきあいが続くことです。
※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。