子育て

赤ちゃんの相手をするのは、お母さんじゃなくてもいい【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

この連載では、農耕を開始する以前の社会で、ヒトがどのように暮らし、子育てしていたかを考えています。自然人類学を学んだ筆者が、自身が子育てしながら感じたことや考えたことを書いていますので、しっかりした学術的な根拠(研究論文)がない話も含まれます。「そういう考え方もあるのか~」と気楽な気持ちで読んでいただければ幸いです。

赤ちゃんが求めているのは笑顔で反応してくれる「人」

今回の記事は、前回の記事(スマホを通した語りかけでも、赤ちゃんの言語能力は発達する【コソダテ進化論】)の続きです。

 

よくテレビを見るときに、子どもだけでテレビを見るのではなく、親が一緒に見てコミュニケーションをとることが大事だ、という意見があります。

先史時代でも、親子が周囲の動植物を見ながら、話をすることはあったでしょう。(電子メディアか否かにかかわらず)「動くものにひきつけられる」という性質は、赤ちゃんにもあり、先天的なものです(自然界では、「動くもの」は同種の仲間やエサとなる動物、あるいは危険な捕食者で、これらの行動に注目することは、赤ちゃんや子どもが生き抜くために必要なことです)。

DVDなどの電子メディアを長時間、赤ちゃんだけで視聴することの問題は、赤ちゃんがどんな反応をしても、相手(電子メディア)から応答がないことで、赤ちゃんが他のヒトに対しても働きかけをしなくなる=コミュニケーション能力の発達が阻害される、という点にあります。

家事や仕事で忙しいとき、ついつい子どもにテレビやDVDを見せてしまうことがあると思います。もともと赤ちゃんや子どもには「動くものに魅了される」という性質があります。さらに、テレビやDVDの制作者も、赤ちゃんや子どもが好むような素材を用意しています。でも、それに頼りすぎると、赤ちゃんのコミュニケーション能力の発達を阻害し、ゆくゆくは自分(親)が子どもとのコミュニケーションに苦労することになるかもしれません。

 

工夫されたアプリも、家族や保育士さんの笑顔には敵わない

スマホのアプリやゲームはどうでしょう?

赤ちゃんが何らかの操作(反応)をすることで、応答があるのであれば、それは一種の「相互交渉」が成り立っている状態、ともいえます。

でも、赤ちゃんが最もひきつけられるのは、ヒトの声や笑顔、特に親しいヒト(家族や保育士さんなど)の声や笑顔です。どんなに工夫されたアプリやゲームでも、家族の笑顔や働きかけには敵いません。逆に、誰も相手をしてくれないなら、アプリやゲームは赤ちゃんを魅了することでしょう。

電子メディアかどうかではなく、赤ちゃんが相互交渉できる(赤ちゃんの反応に対して応答がある)ことが重要です。赤ちゃん(子ども)だけで長時間、電子メディアを視聴させるのは避けた方がいいですが、「コミュニケーションの一つの手段」と位置付けるのであれば、利用可能だと思います。

 そして、赤ちゃんと相互交渉をするのは「母親」でなければならないわけではありません。お父さん、祖父母、保育士さん、兄姉、近所の人…赤ちゃんときちんと向き合ってくれるなら誰でもよいのです。

「アロマザリング(共同保育)」が当たり前だった先史時代、赤ちゃんに笑顔で働きかける人は母親以外にたくさんいたでしょう(お父さん、親族、兄姉、同じキャンプで生活する老若男女…)。もしかしたら、いつまでも赤ちゃんをかまう(相互交渉してしまう)大人たちから「そろそろ寝る時間ですよ!」と言って赤ちゃんを連れ戻して寝かしつけることこそが、お母さんの役目だったのかもしれません。

 

 

※この記事は、2016年~2017年に「つくば自然育児の会」会報に連載された「パレオ育児」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

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