
ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。この連載では、農耕を開始する以前の社会で、ヒトがどのように暮らし、子育てしていたかを考えています。自然人類学を学んだ筆者が、自身が子育てしながら感じたことや考えたことを書いていますので、しっかりした学術的な根拠(研究論文)がない話も含まれます。「そういう考え方もあるのか~」と気楽な気持ちで読んでいただければ幸いです。
サルの基本は「末子優位」
前回(「最近の親は子どもに甘すぎるのでは?」は、生物学の「親の投資理論」で説明できる【コソダテ進化論】https://tochigi.couleur-mama.net/topics/27467/)から引き続き、「親の投資理論」にまつわるお話です。
きょうだいゲンカはサルの場合も起きますが、母親が「仲裁」することはほとんどありません。
基本は「末子優位」といって、母親は問答無用で下の子をかばい、上の子を攻撃します(上の子が先にちょっかいを出したとか、理由によって対応を変えることはありません)。
一方、前々回に紹介したゴリラ(父親の育児が母親の出産間隔に及ぼす影響【コソダテ進化論】
https://tochigi.couleur-mama.net/topics/27072/)では、父親がきょうだいゲンカを仲裁し、より小さい子、病気や障害を負っているなど、ハンディのある子に味方し、上の子たちを諌めます。
類人猿(ヒト科)のゴリラは、知能や他者に共感する能力が高いので、「仲裁」行動が多いのだ、とも言われています。
ヒトで、母親が頭を悩ますほどきょうだいゲンカがひどくなるのは、「子ども期」が長く、(離乳しても)親の注意・関心を惹きたい、とそれぞれの子が思う期間が長いからでしょう(そのように振る舞った子の方が、結果的に長く親の世話を受けて、健康で成人できたので、そうした性質が私たちにも受け継がれている)。
しかし、最近のように、2~3人の子しかいないのに、年齢差が2~3歳、という状況だと、それぞれの子が求める「親の投資」の内容が重なり、きょうだいゲンカもより激しくなるのかもしれません。年齢差が4歳以上あいて、3人以上の子がいる状況なら、それぞれの子が要求する内容が少しずつ変わってきますし、一番上の子が母親に代わって仲裁することもできる場合もあるでしょう。
なぜ上の子が下の子の世話をするのか
もう一つ、「親の投資」理論の発展版として、「弟妹の世話をする」ということも、生物学的な理論で説明できます。
ある程度大きくなった(親の世話をそれほど必要としない)兄姉にとって、弟妹の世話をすることは、将来、自分自身の子を育てる「練習」になるだけでなく、自分と遺伝子を共有する個体を増やすことにも繋がります。
一部の哺乳類(オオカミやマーモセット)では、兄姉が弟妹の育児を手伝うことが知られていますが、これはヒトにもあてはまります(もちろん、個人差や状況にもよりますが)。兄弟ゲンカしつつも、弟妹をかわいい、と思える、一見矛盾した行動や感情の根底には、実は進化の歴史が潜んでいるのです。
※この記事は、2016年~2017年に「つくば自然育児の会」会報に連載された「パレオ育児」に加筆修正したものです。
参考文献
齋藤 慈子、平石 界、久世 濃子(編),2019「正解は一つじゃない 子育てする動物たち」東京大学出版会
※電子書籍もあります:https://www.utp.or.jp/book/b10039982.html