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子宮頸がんワクチン【Dr.村中璃子のからだノート】

子育ては24時間365日のオンコール。「病気だって休めない」あなたと、
あなたの大切な家族を守るため、医療や健康にまつわる知識を身につけよう。

 

“定期接種”の 子宮頸がんワクチン

今回のテーマは「子宮頸がんワクチン」。正確には、子宮頸がんの原因となるHPVというウイルスの感染を予防するワクチンです。

ワクチンを接種後にけいれんするようになった、歩けなくなったという女の子の映像を見て、「怖いワクチン」と思っている人もいるのではないでしょうか。
最初に断っておくと、それは誤解です。子宮頸がんワクチンの安全性は確立し、現在、世界約130カ国で使用され、約75カ国で定期接種となっています。

性交渉を通じて感染するウイルスであるため、日本でも性交経験を持つ前の小6から高1の女の子を対象に国の定期接種となっており、対象年齢の子どもは「無料」で接種できます。
「日本でも定期接種」は意外だと思う人も多いでしょう。日本では、ワクチンを接種した「後に」始まった症状はすべてワクチンによる薬害では、という声が相次いだため、政府はこのワクチンを「定期接種にしたまま」接種の通知を送るのはやめるという奇妙な政策を取ることにしました。

つまり、通知が来ないだけで、子宮頸がんワクチンは定期接種です。ところが、これがまるで国が薬害を認めたかのような印象を与えたため、全国で約80%の接種率を実現していたこのワクチンを打つ人はほとんどいなくなりました。

 

なぜワクチンに対する 誤解が広まったのか

しかし、ワクチンのせいだとされている症状がワクチンによるものという科学的な証拠は世界中どこにもありません。むしろ安全だというデータばかりが積み重なっています。

被害を訴える人の声は大きく、2017年には政府を訴える集団訴訟まで起こされていますが、国民の健康と命を守るワクチンだという確証があるからこそ、政府もこのワクチンを定期接種から外していないのです。
それでも不安に思う人々の間では、日本人だけに起きる薬害では、という意見もありました。

しかし、名古屋市が市内に住む若い女性約7万人を対象とした、副反応に関する詳しい調査(通称「名古屋スタディ」)では、薬害を否定できる非常に心強い結果も出て、英語の専門誌にも論文が発表されています。

では、なぜ子宮頸がんワクチンは危ないという誤解が広まったのでしょうか。

詳細は、私の書いた『10万個の子宮(平凡社、2018年)』を読んでいただきたいのですが、簡単に言うと、子宮頸がんワクチンは思春期の子どもに打つ世界初のワクチンで、思春期の子どもたちの大多数がこのワクチンを打ったために、ワクチンを打った後に偶然起きた別の病気や、子宮頸がんワクチンが接種される前から悩みやストレスを抱える思春期の子どもたちに起きていたがあまり知られていなかった、「身体表現性障害」という病気が目につくようになり、子宮頸がんワクチンによるものとして誤解されてしまったからです。

 

検診だけでは “がん”は防げない

子宮頸がんワクチンは1本15,000円前後と非常に高価で、2回もしくは3回接種が原則です。

感染は予防しますが一度感染したウイルスを除去する効果はないので、定期接種期間を過ぎてから打とうとすると痛い出費になる上、性交経験をもった後に打っても予防効果は激減します。
検診だけでいいと言う人もいますが、検診では早期発見はできてもがんは防げません。早期発見でも手術は必要で、妊娠・出産に関するリスクが上がり、性生活に支障を来すことが知られています。
子育て中の皆さんにとって、わが子がパートナーに出会い、家族をもつといったことはまだ遠い話でピンと来ないかもしれません。

しかし、大切な子どもたちに適切なタイミングで必要なワクチンを受けさせ、子どもたちの健康で幸せな未来を守れるよう、私たち大人も正しい知識と情報をもとに判断したいものです。

村中 璃子さん

医師・ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師。世界保健機構(WHO)を経て、メディアへの執筆を始める。2017年、ジョン・マドックス賞受賞。著書『10万個の子宮』(平凡社)。noteにて、新しい記事を発信中。

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