子育て

子どもは「3歳になると弟妹をせがむ」ようにプログラムされている…のかも【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

「赤ちゃんが来ても大丈夫!」のものすごいプレッシャー

次女が生まれる前、3歳半頃の長女は我が家に赤ちゃんが来てほしくてたまらないようでした。
オランウータンのぬいぐるみを「本物の赤ちゃんが来るまでの、K(長女の名前)の赤ちゃん」と呼び、ままごとの相手をさせるのはもちろん、外出するときはいつも一緒(保育園以外)、夜も同じ布団に入れて寝ていました。
お風呂でひとりで頭を洗えば、「K、もうひとりで頭洗えるから、赤ちゃん来ても大丈夫だよね!」、食器洗いを手伝えば、「Kがお手伝いするから、赤ちゃん来ても大丈夫だよ!」。
大人が「2人目はまだ?」なんていうのとは別の意味でものすごいプレッシャーです(苦笑)。

一見無邪気な「よくできたプログラム」

ちょうど保育園の同じクラスのお友達のおうちに赤ちゃんが生まれたり、生まれる予定があったり、しかも担任の保育士さんまで妊娠したりした時期でもあったことで、長女の気持ちが盛り上がったのもわかるのですが、サルの研究者である母はこう考えました。
「そろそろ自分でいろいろなことができるようになってきて、自分の生存に関してある程度目途が立ってきたから、自分と遺伝子を共有する子孫を増やすためには、今は母親に弟妹を産んでもらうのが、一番手っ取り早いよなあ。こうやって一見無邪気に母親(両親)にプレッシャーをかけるとは、よくできたプログラムだ」と感心したわけです。

私たちの大半は、大昔に「赤ちゃんがほしい」とせがんだ3歳児の子孫

実際、定住しない生活をしている狩猟採集民の社会等では、兄弟姉妹の年の差は4歳が普通です(年子は滅多にいない)。
ヒトの長い進化の歴史の中で、いつまでも甘えん坊でお母さんにべったりの子どもより、3歳頃に「赤ちゃんがほしい!」と自立を目指す子どもの方が、より多くの弟妹(ひいては甥や姪)を得て、集団の中にその遺伝子を広めていったのでしょう。
一方で、子ども自身がまだ小さいときに弟妹が生まれてしまい、母親が上の子の世話に手が回らなくなると、厳しい環境下では上の子が生存の危機に直面してしまいます。
上の子が生き残る確率を高め、かつより多くの血縁者を得る、という2つの結果を両立させるために、お母さんと子どもの双方の駆け引きの落とし所が「4歳差」なのかもしれません。

後日談:そして10年以上が経って

Kが6歳のときに待望の妹が我が家にやってきました。赤ちゃんのうちはかわいがっていたものの、徐々に妹への関心は低下し、妹が小学校に入学する頃には思春期真っ盛りの長女は妹との仲が険悪に(妹も年の離れた姉にライバル心むき出しで、痛いところを突く発言をしたりするので、どっちもどっちですが)。
しかし、思春期の不安定な時期を脱してきたのか、最近は妹に少しやさしくなりました。そしてもちろん、妹も3歳頃から今に至るまで「妹がほしい、妹がほしい」と言い続けています…(ぬいぐるみを妹代わりにしているところも同じ)。
こういうことを人類は何十万年も繰り返してきたのでしょうね…。

※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

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