子育て

サルの研究をしていたら、娘の好き嫌いが気にならなくなった【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

研究が、一番子育てに役立ったこと

私がサルの研究をしていたことで、一番「子育てに役に立った」と思うのは、「食」に関することです。

まず、離乳食。

サルのお母さんは、わざわざ食べものを噛み砕いで柔らかくしてから、赤ちゃんに与えることはありません。

赤ちゃんは好奇心のおもむくまま、お母さんが食べているものに手を伸ばして、口に入れます。小さなうちは、堅い食べもの(樹の皮やナッツなど)を噛み砕くことはできず、ほとんど栄養になりませんが、主な栄養は母乳で摂れるので大丈夫!

おかげで、私は「離乳食の進みが遅い」「好き嫌いが多い」といったことを気にしたことはほとんどありません。「母乳で最低限の栄養は摂れているし、今嫌いなものは、体に受け入れる準備ができていないのかもしれない」と考えていました。

娘が朝食をほとんど食べなくても気にしない

それからサルでは、毎食ごとに栄養のバランスを考えることはありません。

その日、そのときに食べられるものを食べる!

でも、どんなおいしい果実でも、1年中いつでも食べられるわけではないので、結果的に1日、1週間、1カ月という単位で考えれば、「バランスの摂れた」食生活になります。

たとえば、娘が朝食のときにほとんど何も食べなかったとしても、私は気にしませんでした。「嫌いなものでも、お腹が空けば食べるし、1日ぐらい食べなくても死にはしない」くらいに構えているので、食べないときはさっさと片付けます。

好きな食べものをおかわりしたがるときに「この野菜を食べたら、おかわりあげるね」といった条件をつけ、好きなものを好きなだけ食べさせることはしませんでしたが。

私は娘には、将来「世界中どこに行っても、何でも食べられる人間であってほしい」と思っています。食を楽しみに、食への好奇心と丈夫な胃腸を持ち、食を提供してくれた人と生きものへの感謝の気持ちを忘れない、そんな人間に育てたいなあと思っています。

後日談:そして10年以上が経って

上記の記事を書いてから10年以上経ち、長女は中3、二女は小3になりました。

二人とも同じように育てたはずですが、食の好みは(年の差があるとはいえ)かなり違っています。長女はパクチー(香草)などエスニック料理が好きですが、二女は和食が好き。

最近気がつきましたが、長女は「酸味」に関する感覚が、私や二女とはかなり違っていて、私たちが酸っぱいと感じない飲み物や食べ物を「酸っぱい」と言うことがあります。

結局、育て方うんぬんより、生来の味覚(感覚)の方が強く影響するのかな、というのが10年たっての結論です。

味覚だけでなく、他にもいろいろな能力、感覚に関して、自分と我が子の違いを感じることは多く、「私と彼女たちが見ている世界、感じている世界は同じではない」というのが15年子育てしてきて得た学びです。

という経験をもとに、今、離乳食に悩む親御さんたちに私が伝えられることは、我が子といえど、あなたと同じように食べ物を味わい、感じているとは限らないので、嫌がる食べ物を無理して食べさせるのは止めましょう…(あまりに偏食がひどいと思う場合は、専門家に相談しましょう)。

参考   大阪大学プレスリリース「個人の味覚感度の数値化に成功」:https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2023/20230619_2

参考「感覚過敏研究」:https://kabin.life/taste_hyperesthesia/

※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

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