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いじめをなくすため もっと法律を知って【きかせて、子そだて】

子ども向けに法律をわかりやすく解説したベストセラー『こども六法』の著者、山崎聡一郎さん。 『こども六法』を書いた原動力は?子育て中の保護者も法律を学んだ方がいい理由って? お話を伺いました。

「法律の知識があれば小学生の 自分を守れたかもしれない」

『こども六法』は、僕自身のいじめの被害経験が発想の元になっています。「小学生当時の自分に法律の知識があれば、自分で自分の身を守れたかもしれない」、そんな後悔から生まれた本です。

小学校高学年の頃、同級生から殴られたり蹴られたりといった、骨折するほどのいじめを受けました。親と先生に相談し、親は学校と交渉してくれましたが、学校も教育委員会も当たり障りのない対応に終始しました。

小学生でもTVニュースを見ていれば、自分がされたことは暴行罪や傷害罪にあたるのではないか、と気づきます。ニュースでは犯人が逮捕されているのに、自分に暴力を振るった人が逮捕されないのはなぜだろう?そこで、中学生になると法律の本を読み、独学で勉強するようになりました。

ところが、今度は僕自身が「いじめ加害者」となってしまったのです。中学校で部活動の部長をしていた僕は、元々は仲のよかった後輩とトラブルになり、その後輩が部活に来なくなってしまいました。僕は部長として事態を収めるため、みんなで話し合いの機会を設け、多数決で「後輩には部を辞めてもらおう」と結論を出しました。大多数で1人を追い詰めるなんて、完全ないじめです。でも、当時の僕はいじめだと気づいていませんでした。

一般的に「いじめの被害経験がある人は、いじめ被害者の気持ちがわかる」と思われがちです。僕自身もそう思っていました。いじめ問題に取り組むには、経験があればいいわけではなく、さらに学ばなければ、と痛感しました。そこで、大学進学後、「法教育を通じたいじめ問題解決」をテーマに、研究を開始。学部3年時に『こども六法』を書き上げました。

未就学児を育てる保護者も 知識のアップデートを

未就学児の頃は、ルール(法律)とマナーを区別せず、教えている家庭が多いでしょう。でも、成長していくにつれて、子どもたちはルールとマナーを切り分けて理解することが必要になります。ところが、保護者や先生でも区別ができていない人が多くいます。小学校では人権教育が行われますが、「人権を守るのは、人権が守られていない人がかわいそうだから」と間違った説明をしてしまう先生もいます。ルールとマナーがごっちゃになっているのです。

すべての人は、生まれながらにして自由・平等であり、幸福を追求する権利があります。大人は誰でも、「天賦人権論」という言葉を学校で学んだことがあるはずです。言葉は聞いたことがあっても、言葉の意味と意義を本質的に理解していないので、「義務を果たさない者に権利はない、だから宿題をしないと夕食は抜き」などと言い出してしまう親がいます。よく聞く「義務を果たさない者に権利はない」は、人権の話ではなく、民法における「債権と債務」を指しています。買い物に行ったとき、「お金を払わないと、商品は渡さない」、これは成立します。しかし、人権は義務を果たさなくても誰もが持っているものです。人権と債権を混同してはいけません。大人が法律的な考え方を身につけていないと、子どもにも間違った考え方が影響してしまうのです。

今年度から高校の必修科目として「公共」がスタートしました。「公共」では法律も学びます。「法教育」は教育のトレンドになっていくでしょう。そこで、大人の価値観がアップデートできていないと、子どもに置いていかれる事態になりかねません。時代に逆行しないよう、親子で法律的な考え方を身につけていきましょう。

こども六法
いじめや虐待といった犯罪から、自分を守ってくれる強い味方「法律」を知るための一冊。漢字はすべてふりがな付き、難しい用語もできるだけわかりやすく、イラスト付き。

こども六法の使い方
「法律と道徳はどこが違うか」など、法律の根底にある精神を理解しながら、社会のあり方を考える、大人のための本。『こども六法』を親子で楽しく読むためにもおすすめ。
共に、山崎 聡一郎著、弘文堂。

山崎 聡一郎さん

1993年生まれ。教育研究者、写真家、俳優。合同会社 Art & Arts 社長。修士(社会学)。慶應義塾大学総合政策学部3年時に、後に出版される『こども六法』の基礎となる法教育副教材『こども六法』を制作。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。ミュージカル俳優としても活躍中。

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