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「任意接種は受けなくていい」という誤解【Dr.村中璃子のからだノート】

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子どもにワクチンを受けさせたことのある人なら、定期接種と任意接種という2つの言葉を聞いたことがあるでしょう。ところが、この2つの違い、きちんと理解している人は案外少ないんです。多いのは、定期接種は「絶対に受けなければならないワクチン」で、任意接種は「受けても受けなくてもいいワクチン」という誤解。そこで今回は、定期接種と任意接種の違いについて徹底解説します!

正解は定期も任意も「接種が必要」

はじめに、日本の「予防接種スケジュール」に入ったワクチンは、定期接種でも任意接種でも重要性は同じ、すべて受ける必要のあるワクチンです。

ためしに、日本小児科学会の推奨ワクチンを検索してみてください。おたふく風邪やインフルエンザなど、定期接種ではない、つまり接種にはお金がかかるけれど学会が推奨する任意接種ワクチンというのがあるはずです。

では、定期接種とは何かといえば、ズバリ「無料のワクチン」です。定期接種とは、自治体で対象者に無料で提供するよう国が法律で定めたワクチンのこと。定期接種と任意接種の違いは、有料か無料かの法律上の違いに過ぎません。

どのワクチンを、誰を対象に、定期接種(つまり無料)とするかの判断は、ワクチンの値段や供給量、導入の過程で大きなトラブルがなかったかなど、ワクチンの必要性や重要性とは関係のないことで決まっています。

たとえば、1989年、麻疹・おたふく風邪・風疹の3つの病気を防ぐMMRワクチンが、男女ともに定期接種となりました。ところが、MMRワクチンの接種後、ウイルス性の髄膜炎になる子がいるという報告が相次ぎました。調査を行ったところ、MMRワクチンの製造企業のひとつが、おたふく風邪ワクチンの製造方法を無許可で変更し、十分に弱毒化できていないワクチンを出荷していたことが分かりました。すぐにMMRワクチンの使用は中止となり、代わりにおたふく風邪ワクチンを含まないMR(麻疹・風疹)ワクチンが定期接種となりました。

MMRワクチンなどの混合ワクチンは、注射の回数や病院に足を運ぶ回数を減らし、接種漏れを防ぐなど、多くのいい点があります。本来なら、おたふく風邪ワクチンの安全な製造方法を徹底させ、MMRワクチンを定期接種として復活させればよかったのです。しかし、その後今日に至るまで、おたふく風邪ワクチンは定期接種に戻っていません。

「定期接種じゃないから」が招いた風疹流行

任意接種の問題点は、接種率が低くなることです。おたふく風邪ワクチンは、麻疹や風疹のワクチンと同様に重要なワクチンですが、MRワクチンの接種率が全国平均で約95%なのに対し、任意接種となったおたふく風邪ワクチンの接種率は40%以下となっています。

接種率の低い任意接種ワクチンの例として、今では定期としてMRワクチンに入っている風疹ワクチンも検討してみましょう。MMRワクチン導入を機に、男子にも定期となった風疹ワクチンは、当初単味ワクチンで、女子だけを対象に定期接種でした。そのため、2020年現在、41歳から58歳の男性の接種率が低く、これが風疹流行の原因となっています。生ワクチンである風疹ワクチンは妊娠中は接種できません。ところが、妊娠中の女性が罹ると、生まれてくる赤ちゃんに難聴や白内障、先天性心疾患などの先天性風疹症候群と呼ばれる障害を引き起こし、2019年も、全国で4例の報告がありました( 11月28日現在)。「定期でなければ接種する必要がない」という誤解や「有料なら接種をやめておこう」という考えが、子どもたちの命や健康に大きな影響をもたらすことが分かりますね。

子どもたちはワクチンを接種して、元気で健康に育っていく権利を持っています。任意接種でも自治体の助成があるところがほとんどで、一部、場合によっては全部を無料で受けられます。子どもたちのため、妊娠を考える女性やこれから生まれてくる子どもたちのためにも、定期・任意に関わらずワクチンは積極的に接種したいものです。

村中 璃子さん

医師・ジャーナリスト。京都大学医学研究科非常勤講師。世界保健機構(WHO)を経て、メディアへの執筆を始める。2017年、ジョン・マドックス賞受賞。著書『10万個の子宮』(平凡社)。

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