子育て

なぜあんなに厳しかった母が、孫には驚くほど甘くなるのか【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

サルのお母さんは、末っ子には長く世話をする

以前、こんな質問をされたことがあります。

「私は3人子どもがいますが、『1人目は大変、2人目で加減がわかる、3人目はただただかわいい』という言葉を日々実感しています。

サルでも、末っ子と上の子で育て方が変わったりするのでしょうか?」

基本的にサルには閉経がありませんので、死ぬまで自分のコドモを産んで育てます(孫がいても、世話をすることはほとんどありません)。

そして、年を取ってから生まれた最後のコドモ(末っ子)に対しては、離乳や親離れを促すような行動が減り、上のコドモよりも長く(場合によっては死ぬまで)世話をすることが知られています。

でも、これも「そのように振る舞った個体がより多く子孫を残せたので、その個体の遺伝子が集団に広まって定着した」として説明できます。

ヒトの閉経がもたらした「おばあちゃん」という存在

母ザルが一生に産めるコドモの数は限られていますから、上の子がある程度大きくなれば、離乳や親離れを促し、次の子を産まないと、たくさんのコドモを残すことができません。

でも、自分の一生が終わりに近づいてきて、「この子が最後の子」となれば、できるだけ長く末っ子の世話をして、その子が丈夫で長生きできるようにがんばった個体の方が、結果的に(末っ子を長く世話しなかった個体と比べて)より多くの子孫を残せた可能性があります。

ヒトを含む一部の哺乳類は、閉経して「おばあちゃん」になることで、残りの人生を「子」よりも「孫」のために使うように進化してきた、という仮説(おばあさん仮説)が提唱されており、ヒトやゾウ、シャチなどでこの仮説が検証されています(注1)。

子どもに厳しかったお母さんが、孫には甘いおばあちゃんになってしまうのも、同じ理屈で説明できます。1人1人の子どもにかける時間や労力は限られてしまいますが(たくさんの子どもを残せなくなってしまうから)、孫については制限を設ける必要がないからです。

子には厳しく、孫には甘い女性ほど、結果的にたくさんの子孫を残せたのでしょう。

注1:シャチが閉経後に長生きするのは「孫のため」(https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/121000719/

注2:最近では、アブラムシの仲閒でも「おばあさん仮説」があてはまる(繁殖をおえた老齢個体が若い個体の為に自己犠牲的に振る舞う)ことが報告されています。「昆虫の社会における「おばあちゃん効果」の発見 ―ヒトと昆虫の社会をつなぐ―」(https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/press/p01_220618.html

 

※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

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