女子サッカー選手である下山田志帆さんは、同性のパートナーがいることを公表。性別については、「男の子になりたい」と思った子ども時代を経て、「男性や女性、中性などの分類は自分にはまったく関係なく、『自分は自分でしかない』という性のあり方をもって」います。お話を聞きました。
「女の子だから」従兄弟が羨ましかった子ども時代
私には年の近い男の従兄弟が2人います。子どもの頃、親戚がプレゼントしてくれるのは、従兄弟にはかっこいいおもちゃで、自分にはかわいい人形やぬりえ。私は従兄弟がもらうものが羨ましくて仕方ありませんでした。服装も、従兄弟たちと違って、赤い服やスカートを着させられる自分。3歳の頃、スカートを履くのが嫌で大泣きしたことを覚えています。
そんなとき、両親や祖母から言われたのは「女の子なんだから!」という言葉。小学校でも、男の子たちが使う「うるせえよ」などの言葉を真似して使うと、先生に「女の子なんだからいけません」と怒られました。性別以外の理由があれば、納得していたかもしれないけど、「なぜ男子ならいいのか?」と逆に反発して、余計に汚い言葉遣いになってしまっていましたね。
今振り返って思うのは、子どもの服装や持ちものについて、「自分で選んでいる」という感覚はすごく大切だということ。あまりにも小さい子だと無理だと思いますが、できれば買う時点で本人に「どれがほしい?」と聞いてあげてほしいのです。そして、選んだものを絶対に否定しないで、尊重してあげてください。
自分で選んだ髪型を否定しないでほしい
私は小学4年生の頃に長かった髪をばっさり切って短くしたのですが、それからずっと、大人になっても、母に「もっと長くしたら?」と言われ続け、髪を切るたびにため息をつかれることが嫌でした。そして、「自分で選んで短くした髪を否定されてきた」ことが、ジャブのように大人になっても、自身に影響しているのではないかと感じます。
ポジティブで前向きな人間なんだろうと思われることが多々あります。ですが、実はとても慎重な人間ですし、「自分は自分でいいんだ」と胸を張ることが難しいと感じることも多いです。今となっては、個性だと受け止められていますが「どんな自分でも自分だ」と堂々と生きている人を見ると羨ましくなります。もし「その髪型も素敵だね」と一言目に親から肯定の言葉をもらえていたとしたら、きっとわたしも、少しだけ自分に自信を持てる大人になれていたような気がしています。だから、もし髪型や服装など、子どもが選んだ何かが気になったとしても「変だよ」と否定するのではなく、せめて「なんでそうしたいと思ったの?」などと聞いてあげてほしい。
一番信頼する親に、「何を選んでもあなたは素敵だよ」と言ってもらえることはとても大切なことで、将来「自分は自分でいいんだ」という誇りに繋がっていくと思います。
大切なことは、親も 学ぶ姿を見せること
私はSNSでLGBTQに関して子育てに悩む保護者からの相談をよく受けるのですが、皆さん、「親なのだから子どもの一番の理解者でなくては」や「正しくなくては」と思っているようなのです。
でも、私自身LGBTQの当事者ではありますが、すべてのLGBTQの人を理解できているとはいえません。LGBTQと一口に言っても、みんな違う人間。だから、保護者の方も最初から全てを理解することはできなくて当然です。大切なことは、「親も学んでいく姿」を子どもに見せることではないでしょうか。
「性の多様性」という言葉通り、性のあり方は本当にひとりひとり違います。学びながらアップデートしていくことや、わからないなら「教えて」と尋ねることが、もし子どもが当事者だったとしても、子どもにとって安心できる、心地よいことだと思います。
みんなの研究 女子サッカー 選手です。 そして、 彼女がいます
「私は女?それとも男?」「どの性の人を好きになる?」「LGBTQってなに?」など、下山田志帆さんが小学生向けに、自分の言葉で丁寧に綴った「自分を大切にするため」の話。もちろん大人にも。出版社:偕成社
みんなの いろいろ
スポーツ用品メーカーのナイキが、スポーツの未来を担う子どもたちのためにアーティストの清水文太さん、グラフィックデザイナーのMACCIUさん、下山田志帆さんと一緒につくりあげた絵本。ウェブサイトで読めます。 https://www.nike.com/jp/pride-jp