ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。
せっかく寝かしつけたのに、布団に置くと…
赤ちゃんを何十分も抱っこし続けて寝かしつけ、ようやく布団の上に寝かせた途端、目を覚まして「エーン」と泣かれる、こういう経験をしているお母さんは多いと思います。「背中にスイッチがある」なんて冗談めかしに言うこともありますが、これを繰り返してお母さんが疲れ果ててしまうことも珍しくありません。
でも、赤ちゃんのこんな行動も、もともと私たちヒトがどんな環境で子育てしていたか、を考えれば、しごく当たり前の反応なのです。
私たちの祖先は、アフリカの熱帯雨林やサバンナで、ライオンやハイエナ、ワシなどの猛禽類、ヘビといった多くの肉食動物に囲まれて生活していました。
自分で動くこともできない無力な赤ちゃんが、お母さん(大人)から離されて地面に寝かせられるという状況は、とても危険です。大人達が目を離したスキに、肉食動物に襲われるかもしれません。
赤ちゃんにとって一番安全なのは、お母さん(大人)に背負われたり、抱っこされたりしているときです。赤ちゃんにとっては、平らな場所に横たわるよりも、大人の体にぴったりくっついて、ぬくもりと振動を感じることができる状態が、一番快適(安心できる)状況なのです。
静かな環境では、実は安心できない赤ちゃん
また、寝ている赤ちゃんのために静かな環境をつくろうと、努力しているお母さんも多いと思います。
でも、物音ひとつしないような「シーン」とした静寂は、実は赤ちゃんを不安にします。
私たちの祖先が暮らしていた森やサバンナは、常に虫や鳥の声が聞こえる、賑やかな環境です。むしろ全く音が聞こえない、という状況は、嵐の前や周囲に肉食動物がいて殺気だっているときなどです。
赤ちゃんにとっては、静寂よりも、周りでくつろいだ話し声などがしている環境の方が、ずっと安心できるのです。ただし、突然大きな物音などがすると、危険が迫っていると思い、敏感に反応してしまうので、賑やかであればいいというわけではありませんが…。
※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。