主に母親が1人で(ワンオペレーションで)家事・育児をこなす「ワンオペ育児」。「うちのことだ」というママは少なくないはず。
今回は、ワンオペ育児の実情に詳しい社会学者の藤田結子さんに、そもそも、なぜワンオペ育児になってしまうのか、改善のためにはどうすればいいかを伺います。前編では、夫が家事育児をしないのはなぜ?について、詳しく解説していただきました。
藤田 結子さん
明治大学商学部教授。専門は社会学。調査現場に長期間参加し、観察やインタビューを行う研究法を用い、文化、メディア、若者、ジェンダーなどについてフィールド調査をしています。4歳の男の子のママ。
イクメンが増えたとも言われていますが、女性の負担が減らないのはなぜでしょうか
確かに増えたイメージはありますが、実態はというと、男性が家事育児をする時間は、1990年代からほとんど変わっていないからです。
総務省の調査によると、6歳未満の子どもを持つ共働き世帯でも、育児を日常的にする父親はわずか2~3割。家事育児に費やす時間は、共働きの母親が一日約6時間、専業主婦の母親が約9時間なのに対して、父親はわずか1時間です。
北欧やアメリカでは、父親が一日3時間は家事育児をしています。日本の父親が家事育児をする時間は、先進国の中では未だに最低水準なんですよ。
「父親も家事育児をするべき」という意識は広まっている印象を受けますが…
私も、週末のショッピングモールや公園に行くと、ベビーカーを押したり子どもを抱っこしたりするパパをたくさん見かけるので、データとのギャップに首を傾げていたんです。
ところが、定点観測をしてみると、平日にパパの姿はなく、子どもを連れているのはママばかりだとわかりました。イクメンといっても、大半は週末イクメンなんですね。
また、育児を「遊び」と食事の用意や洗濯などの「世話」に分けた調査では、父親は子どもと遊ぶ回数は増えても、世話をする回数は増えていないこともわかっています。
実際、妻にインタビューすると、夫は子どもと遊ぶだけで、本当にやってほしい食事の支度や洗濯などは一切やらない、といった嘆きがたくさん聞かれます。本当のイクメンは、まだまだ少ないのが現実です。
仕事が忙しいから、できないのでしょうか
日本の長時間労働も、ワンオペ育児の要因の一つです。
未就学児がいる家庭における夫の平均帰宅時間は20時、3割が21時以降ですから、それでは、夫が帰る頃には子どもはすでに寝てしまっていますよね。
EUでは残業時間の上限が月32時間であるのに対し、日本では、繁忙期には月100時間未満まで認められているなど、法制度も改善の必要があると思います。
フルタイムの共働き家庭でも、女性の方が大変なような…
実際、データを見てもそうなんですよ。平日における夫と妻の仕事・通勤、家事、育児を足した「総労働時間」を比較した調査では、正社員の妻が、最も長時間であることがわかっています。
総労働時間の平均も妻のほうが長く、パートの妻と夫の総労働時間が、ほとんど同じという結果でした。夫の「忙しいからできない」は、夫の気のせいである可能性が大です。
また、夫は家事育児の時間よりも、「趣味教養」の時間の方が長いという調査結果もありますから、夫はもっと家事育児ができるはず、といえるでしょう。
夫が家事育児をしないのは、長時間労働だけが理由ではないんですね
そうですね。ただ、すべての夫が家事育児をしていないわけではないんです。中には、毎日残業をしないで子どものお迎えをして、夜遅くから洗濯機を回して…という夫がいるのも事実。
夫の場合、まったくタッチしない人から、週末だけはする人、妻と同じくらいする人など、いろいろなケースがあります。
一方、妻は、パートでもフルタイムでも、専業主婦でも、夫がしない分の家事育児を引き受けることになるので、みんな大変なわけですが…。
家事育児をしない夫は、なぜ、しないのでしょうか?
子どもの世話をしてくれる祖父母が近くにいる、あるいは同居している場合には、自分がする必要性を感じにくいでしょうし、実際に長時間労働である場合もあります。
また、男性が稼ぎ、女性が育児家事を引き受けるという「性別役割意識」も影響しています。
これからますます共働き家庭が増えていくなかで、夫は、自分がやるべきことは会社の仕事だけではなく、家事育児も、自分の役割として自覚していく必要があると思いますよ。
参考:
育児総務省平成28年社会生活基本調査
季刊家計経済研究「休日における家事・育児への関与は平日の『埋め合わせ』になるのか」
松田茂樹「近年における父親の家事・育児参加の水準と規定要因の変化」(家計経済研究)2006年