子育て

なぜヒトの愛は「4年」で終わるのか【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

「子はかすがい」は真実?

ヒトでは、狩猟採集民、農耕民など世界中のあらゆる文化で共通して「結婚」という制度があり、1組の男女(場合によっては、1人の男性に対して複数の女性)が、独占的で排他的な、性的な結びつきを持ちます。

離婚が認められない社会もありますが、離婚が可能な場合、「結婚後4年目に離婚のピークがある」という報告があります。離婚しないまでも、不倫や恋人同士が別れるのも4年目以降であることが多い、ともいわれています。

実はこの「4年」という数字に重要な意味があります。1組の男女の間に子どもが産まれ、その子がある程度大きくなるのに必要な期間が、ヒトの場合4年なのです。

3歳未満の乳幼児がいかに手のかかる存在か、ということは、皆さんもよくご存知のことだと思います。私たちの祖先が狩猟採集生活を行っていた頃、手のかかる乳幼児をお母さんが1人で育てることは困難であり、「父親」のサポートが不可欠でした。

ヒトはアホウドリと違い、「愛が冷める種」である

しかし、子どもがある程度しっかりしてくれば、次の子を産むことができます。ヒトの場合、次子の父親は必ずしも同じ相手である必要はないのです。実際、結婚・離婚がかなり自由な狩猟採集民の社会では、大勢の異母兄弟と異父兄弟がいることが珍しくありません。

もしヒトが一部の鳥類(たとえばアホウドリ)のように、一生同じ相手と添い遂げる種なら、私たちは離婚したり、不倫したり、恋人に飽きたりすることはないはずです。

もちろん、ヒトでも一生同じパートナーと仲良く暮らす男女もいますが、浮気したり、愛情が冷めてしまうことも珍しくありません。でも、アホウドリでは、基本的にすべての個体が、死ぬまでパートナーを変えることはありません。

ヘレン・E・フィッシャー著(1993年)「愛はなぜ終わるのか─結婚・不倫・離婚の自然史」(草思社)は、ヒトの恋愛と結婚について、世界中から集めたデータを、生物学、人類学、進化論、神経科学、心理学、統計学を駆使して分析しています。平易な文章でとてもわかりやすく書かれているので、オススメです(本書は2016年に改訂版「Anatomy of Love: A Natural History of Mating, Marriage, and Why We Stray」が出版されていますが、まだ翻訳は出版されていないようです)。

※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

一覧へ戻る

関連する記事

カテゴリ一覧

公式インスタグラム