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一度の昆虫との出会いが一生を変えるかもしれない【きかせて、子そだて】

野ねずみの一家の暮らしを描いた『14ひきの』シリーズなど、数々の作品で知られる、絵本作家のいわむらかずおさん。読者である子どもたちや保護者へ伝えたいことはどんなことですか?ご自身は、どんな子育てでしたか?栃木県にある「いわむらかずお絵本の丘美術館」で、お話を聞きました。

5人の子どもたちは本が好きな子もそうでない子も

私の子どもは5人いますが、みんな絵本は好きでしたね。私は子どもを持つ前から美術学校を出て、デザインなどやっていたわけですが、絵本作家を志したひとつには、自分の子どもたちが絵本を夢中になって読んでいた、ということに教えられた部分もあります。

子どもたちに絵本を読むのは夫婦どちらがということはなくて、私も妻も状況に応じて読んでいました。読むのは寝る前が多かったですね。『14ひきのこもりうた』にもお母さんが寝る前に本を読んであげる場面が出てきます。

それで、本好きに育ったかどうかはどうでしょうね、子どもの頃から本を読むのが好きだった子もいれば、そうでない子もいます。

それぞれの個性を大切に進む道を見守ってきた

私が絵本作家だからといって、特別なことは何もしませんでした。ただ、美大に進んだり、現在陶芸作家をしている子もいるので、ひょっとしたら影響はあったのかもしれませんね。子どもたちの進路はそれぞれで、中には、化学や自然関係の大学に進んだ子どももいます。子育てでは、5人とも違う個性を持っているので、それぞれの個性を大事に、自分で考えて進む道を選ぶことができるように見守ってきました。

子どもたちは、私の作品もずっと読んでいてくれたと思いますよ。この「絵本の丘美術館」は、長男と長女が運営してくれています。美術館ができるよりずっと前、外で食事をしているときに、「美術館をやるってこともあるかな」と口にしたら、長男が「やりたい」と言い出してくれたんです。なかなか口に出して褒めてはくれないけど、行動で示すというか、こういうことをやってくれていること自体、父親としてこんなにうれしいことはないですね。

「14ひき」と同じ自然の中で 暮らして生まれた絵本

絵本の読者である子どもたちには、自然体験を伝えていきたいと考えています。『14ひきの』シリーズも、東京から栃木県の田舎に移り住んでから生まれたもの。

私自身も、自然の中で「14ひき」と同じような暮らしをしながら考えたわけですね。そういった意味でも、私にとって自然と絵本のつながりは強く、切り離せないものですし、作者だけでなく、読者の子どもたちにとっても、自然から教わるもの、五感で受け取るものは、生きていく上でとても大切なものだと思います。

『14ひきの』シリーズは、全巻に渡って1枚の絵にたくさんの情報を描き込んでいます。「○○しているのはだれ?」など問いかけも入れて、読みながら子どもたちがいろいろなことを見つけていく絵本になっています。

子どもたちには、絵本だけでなく、実体験としても、自然体験を持っていてほしいですね。「都会に住んでいて、自然がないから」というかもしれないけど、そういうことではないんですよ。とにかく外へ出ていって、いろんな生きものに出会ってほしい。ひょっとしたら、たった一度の昆虫との出会いが、その子の一生を変えるかもしれません。ぜひときどきは自然の中へ出かけてほしいですね。

絵本選びは、自分たちの 目が試されるとき

今子どもを育てている保護者に伝えたいことは、「できるだけ良質な絵本を子どもたちと楽しんでください」ということですね。ただ、いろんな絵本のうち、何が良質かは自分たちで見つけるしかありません。自分たちの目が試される、ということなんですよ。

いわむらかずお 絵本の丘美術館

絵本の世界と、その舞台である里山の自然が同時に楽しめる場所づくりを目指して、1998年に栃木県那珂川町に開館。いわむらかずおさんのお話会・サイン会も隔週日曜に実施中。

いわむら かずおさん

絵本作家。1939年東京生まれ。東京芸術大学工芸科卒業。1975年、栃木県益子町の雑木林の中に移り住む。世界でシリーズ1500万部の『14ひきのシリーズ』(童心社)など、その絵本は海外でも広く親しまれている。

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