ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。
ヒトの祖先に年子はまれだった
長女が2歳になった頃、親戚などから「そろそろ2人目は考えないの?」などと言われるようになりました。
「2人目をいつ産むか?」と悩んだ方(悩んでいる方)も多いと思います。
私たち現代人は次の子をいつ産むかを、自分たちの意思で決めることが多いですが、多くの哺乳類は種ごとに決まった「出産間隔」というのがあります。例えばニホンザルなら2年に1回(母親の栄養状態がよいときは1年に1回)、ゴリラなら4年に1回、オランウータンなら6~9年(!)に1回。
実は私たちヒトも、昔はほとんどの女性が3~4年に1回の間隔で出産していたと考えられています。今でも定住をせず、自然の恵みに頼った暮らしをしている狩猟採集民の社会では、3~4年に1回しか出産しないので、年子はほとんどいません。
ヒトは約1万年前に農耕を始めて、母親の栄養状態が良くなるとともに、良質で消化しやすい食物を離乳食として利用できるようになったので、出産間隔が短くなったのです。
3歳頃までは「ルール」が理解できない
哺乳類では一般に、「出産間隔=赤ちゃんが離乳する年齢」で、これは赤ちゃんだけでなく、オトナも含むその種の社会にとって、とても重要な数字です。
例えばゴリラやチンパンジーでは、離乳前の赤ちゃんは何をしても許されます。しかし離乳する頃には、オトナに挨拶する、などの群れのルールを守らないと、オトナから攻撃されるようになります。
狩猟採集民の社会でも(昔の日本でも)、3歳より小さな子どもは、周囲の大人から甘やかされて育ち、しかられることもほとんどありませんが、下の子が生まれると、社会のルールを教えられるようになります。
最近、赤ちゃんの心や脳の研究が進み、ヒトが「ルール」という「概念」を理解し、守れるようになるのは3歳頃だということがわかってきました。それより小さな子は、「こういう状況のときは、このようにふるまえばよい」という条件(組み合わせ)を学習しているだけで、「ルール」という概念を理解しているわけではないのです(「ルールを守る」のは難しい)。そう考えると、3歳頃からしつけを始める、というのは理にかなっているかもしれませんね。
ちなみに私は、私自身が年子だった経験(1歳下の妹がいる)や、子育てに振り向けられる自分の精神的・時間的余裕(リソース)を考慮して、「出産間隔は4歳以上あける!」と心に決めていましたが、結果的に6歳差になりました。
保育園料のきょうだい減免措置が受けられない、卒業・入学が重なるので経済的負担が偏るなどのデメリットもありますが、6歳差でよかったと心の底から思っています。
理由はいくつもありますが、一つはこれだけ年が離れていると、上の子は一緒に子育てをする「戦力」にもなり、家庭内で赤ちゃんの世話をする人の手が増えます。
それから、上の子は段々親の手を離れて、学校や友人など新しい世界を広げていく時期なので、過度に親が世話をする事態を避け、自立を促すこともできます。さらに、上の子は「赤ちゃんと暮らす、赤ちゃんの世話をする」という経験を積むことができます。
他の家庭の赤ちゃんと触れあう機会がとても少ない現代では、彼女が親になる時に貴重な経験になると思います(私自身、7歳下の妹もいて、その世話をしていたのがよい経験になりました)。何より、子どもが小さい頃にそれぞれの子にじっくりと向き合い、上の子が大きくなっているからこそ、下の子の子どもらしい行動や言動を惜しむように愛でることができます。
もし娘達の年齢が1~3歳差だったら、この可愛い時期は、惜しむ間もなくあっという間に駆け抜けてしまったのだろうな、と思います。
ヒトの社会も、赤ちゃんの心も体も、本来は3~4年で次の子が生まれる、という間隔のもとに進化してきました。しかし現在の社会は、祖先の暮らしとは大きく違ってしまっていますし、各家庭のライフプランや経済状況、母親のキャリア形成や年齢など、様々な要因を考慮しなければならないので、3~4年間隔で子どもを産んだ方がよい、と一概には言えないと思います。とはいえ、それぞれの母親が子どもを生む間隔を、多くの選択肢の中から選ぶことができる社会であって欲しいなと思います。
※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。