子育て

現代人は、大人になっても「離乳食」を食べている!?【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

サルの母親は離乳食どころか食べ物全般を与えない

「サルのお母さんはどんな離乳食を食べさせるのですか?」とたまに聞かれることがあります。

答えは「サルに離乳食はありません」。

サルの赤ちゃんは生まれてから最初の数週間~数カ月(オランウータンなら1年ぐらい)は、母乳しか飲みませんが、「母乳を飲みながら大人と同じ物を食べる」という期間を経て、乳歯が生えそろう頃に卒乳します。母親がかみ砕いて軟らかくした食べ物を与えることはありません。

せいぜい赤ちゃんがお母さんの手や口から食べ物を「盗る」のを許すぐらいで、離乳食どころか、積極的に食べ物を与えることさえありません(ちなみに母乳も、赤ちゃんが吸いたいときに吸い、お母さんが積極的に飲ませようとすることはほとんどありません)。

祖先の食べ方に最も近づきたいなら、「フランスパン」

アフリカで伝統的な生活を送っている狩猟採集民の社会では、3歳頃まで母乳がメインの食生活になっています。赤ちゃんが容易に食べられるような、消化に良い食べ物がなかなか手に入らないからだそうです。

考えてみれば、現代人が食べている農作物こそ、サルからみれば「離乳食」のような物かもしれません。軟らかくて栄養価も高く、あくも少ないですからね。

サル的におすすめの、小さな子どもの食べ物は「あごを丈夫にする」ような、歯ごたえのある物です。よく噛んで食べると、歯やあごが丈夫になり、脳も活性化され、食べ過ぎも防げる、という話は皆さん、聞いたことがあると思います。

「顔」の研究をしている人類学者の方に聞いた話では、あごを丈夫にするのに最も良い食べ物は「フランスパン」だそうです。

長いままのフランスパンを歯で食いちぎって食べる、という食べ方が、私たちの祖先の食生活に最も近い歯とあごの使い方ができるそうです。私も娘には、離乳食の初期の段階から、フランスパンをあげていました。食いちぎって食べている姿は逞しく、いつも楽しく見ていたものです(初期の頃は喉に詰まらせないよう、気をつけてください)。

※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

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