「食事で母乳の質が変わるって本当?」「離乳食の開始はいつがいい?」「ワクチンは安全?」育児情報のウソ・ホントについて、育児に役立つ医療情報を発信し続けている小児科医の森戸やすみさんにお話をうかがいました。
森戸 やすみ さん
小児科専門医。一般小児科、NICUなどを経て東京都千歳船橋の「さくらが丘小児科クリニック」に勤務。医療と育児をつなぐため、自身のブログ「Jasmine Cafe」をはじめ、さまざまなメディアで情報発信する。「新装版 小児科医ママの『育児の不安』解決BOOK」など著書多数。2人の女の子のママ。
「食事で母乳の質が変わる」って本当でしょうか?
よく、母乳のためには粗食な和食が良いなどと言われますが、医学的根拠はありません。食べたものにかかわらず、母乳の質は一定に保たれます。油っぽいものを食べて乳腺炎になったり、辛い物を食べて母乳の味が辛くなったりすることもありません。母親が健康を害するほど極端に偏った食事はNGですが、授乳中も、食べたいものを食べて大丈夫ですよ。
また「離乳食の開始はアレルギー予防のために遅めがいい」ともよく言われますが、これも間違い。離乳の開始や特定の食べ物の摂取を遅らせても、アレルギーの予防効果があるという科学的根拠はなく、6カ月頃から離乳食を始めるのが良いとされています※。
育児情報は個人の思いこみや迷信など、間違ったものも少なくありません。正しい知識があれば、何かあっても落ち着いて対処でき、情報にも振り回されないですみます。ドキドキ、ハラハラしながら育児をがんばるパパ・ママが「科学的根拠のある情報」を参考に、少しでも安心して子育てができたらと思います。
最近、ワクチンの本を出された背景を教えてください
ワクチン接種率の世界的な低下により、麻疹など、ワクチンによって抑えられるはずの感染症が再び流行しています。日本ではHPVワクチンの接種率も低く、先進国の中で日本だけが子宮頸がんが増え続けてしまうかもしれません。
接種率の低下は、ワクチンに対する不信・不安感が高まったことも一因でしょう。外来でも「自然感染したほうが、免疫がつく」「添加物を体に入れたくない」「副反応が怖い」などの理由から、お子さんにワクチン接種をほとんどさせていない保護者に出会います。
ワクチンの目的は免疫をつけることではなく、感染して辛い思いをすることや、感染症による合併症や後遺症、死亡のリスクを防ぐことです。自然感染すれば、免疫はつきますが、感染することで子どもに後遺症が残ったり、最悪は亡くなってしまったりしては元も子もありません。
ワクチンには、安全性や効果を高めるために添加物が入っていますが、ごく微量で、安全性が確かめられたものばかり。副反応はゼロではないですが、確率は非常に低く、発生しても軽症がほとんどです。
医学が進歩した今、私たちは感染症の恐ろしさや、ワクチンが何のためにあるかを知る機会が少ないので、健康体に注射をし、よくわからないものを投与するのは「やっぱり不安…」という親の気持ちもわかります。そんなときは、感染症に罹るとどうなるか、リスクを知ることも判断材料になります。厚生労働省HPの「感染症情報」を参考にしてみてください。
ワクチンについて「知らなかった」ために、子どもが辛い目に遭わないように。小児科医として、母親として心から願っています。
正しい育児情報を得るにはどうすればいいでしょうか?
基本的には、官公庁や公共機関の情報を参考にしましょう。ワクチンについては厚生労働省、国立感染症研究所や日本小児科学会などのサイトが参考になります。母乳については、NPO法人「ラ・レーチェ・リーグ日本」のサイトもおすすめです。
ただ、いくら育児情報を探しても「100%の正解」はなく、ゼロリスクもありえません。「今ある中からベターを選ぶ」。そんなスタンスのほうが気も楽だし、物事を冷静・客観的に判断できると思います。
読者にメッセージをお願いします
クリニックでたくさんの親と接して思うのは、ママはもっと気楽に、パパはもうちょっと子育てに当事者意識を持てると、バランスがいいなぁということ(笑)。夫婦が、子育てのうれしいこと大変なこと、いろんなことを一緒に乗り越えていけたなら、きっと、家族みんなが幸せになれる。そう思いますよ。
※厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」(2019年版)参照。すでにアレルギーの診断がされている場合は、小児科医に必ず相談しましょう。