
ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。
この連載では、農耕を開始する以前の社会で、ヒトがどのように暮らし、子育てしていたかを考えています。自然人類学を学んだ筆者が、自身が子育てしながら感じたことや考えたことを書いていますので、しっかりした学術的な根拠(研究論文)がない話も含まれます。「そういう考え方もあるのか~」と気楽な気持ちで読んでいただければ幸いです。
羨ましい?ほとんどのサルは1日の半分寝ている
以前、「サルの睡眠時間はどれくらい?何時に寝て何時に起きるの?」と尋ねられたことがあります。
サルの睡眠時間というか「就寝時間」は、基本的に「日が沈んだら寝て、日が出たら起きる」です(睡眠時間は厳密に脳波などを計って調べますが、野生のサルでそうした研究はほとんどないので)。
じゃあ夏は就寝時間が短くて冬は長くなるのでしょうか?
確かに、ニホンザル、特に北の地方に住んでいるサルではそうした傾向もあるようです。
が、実はほとんどのサル(霊長類)は熱帯=赤道直下で暮らしているので、1年を通じて日の出と日没の時間がほとんど違いません。私が調査していたボルネオ島も赤道直下なので、1年を通じて日の出は朝6時前後、日没も夕方6時頃です。
サルは一部の種類を除いて基本的に昼行性なので、彼らの夜の生活や行動を調べた研究はまだ少ししかありません。
動物園でも野生でも、暗くなると寝て、明るくなると起きる、という生活は基本的には同じです。でも野生のニホンザルでは、同じ森に住む野生のシカに起こされることがあったり(シカは昼夜にわたって行動します)、アフリカに住むヒヒなどのサルは捕食者(ヒョウやライオンなどの肉食動物)が近づいてくるのを感じとって夜中に大騒ぎする、といった事例も報告されています。
参考記事:西川真里「サルは夜に動いている? 観察で感じた「なぜ?」を解明しよう」
ベッドで寝ているオランウータンを一晩中観察してみたら
よりヒトに近いチンパンジーやオランウータンは、毎日葉のついた枝をお碗型に折りたたんで就寝用の「ベッド」を木の上につくります(ニホンザルなどの小型のサルは、枝や地面に座って寝るので、ベッドはつくりません)。
チンパンジーのベッドや夜の行動については、「チンパンジーは 365 日ベッドを作る」(座馬耕一郎著)という本でわかりやすく紹介されているので、興味のある方はぜひ手にとってみてください。特に睡眠について悩みを抱えている方は、思いがけないヒントが得られるかもしれませんよ!
私自身、ベッドの中で寝ているオランウータンを一晩中観察する、ということを二晩行った経験があります。
どちらも若い個体だったので、日没頃にベッドをつくり、葉がついた枝を毛布のようにすっぽり被って姿を隠して就寝。日の出の頃まで、ベッドから出てくることはありませんでした。
その代わり、朝起きると大量のウンチとオシッコをします。一方で座馬さんによると、チンパンジーは夜中にベッドからお尻だけ突き出してウンチをすることがあるそうです。
赤ちゃんや小さなコドモはどうなのでしょうか?まだ観察例はありませんが、もしかしたら夜中にベッドから出てオシッコすることもあるのかもしれません。何より、夜中にベッドの中でお母さんが授乳しているに違いないのですが、サルの夜間授乳に関する報告はまだありません。
この続きは、次の連載回でお伝えします。
参考文献
座馬耕一郎 著「チンパンジーは 365 日ベッドを作る」(2016 年)ポプラ新書
川端裕人・三島和夫 著「8時間睡眠のウソ。日本人の眠り、8つの新常識」(2017)集英社文庫
※この記事は、2016年~2017年に「つくば自然育児の会」会報に連載された「パレオ育児」に加筆修正したものです。