子育て

「教えたがり」なヒト、「見て盗む」サル。ヒトが子どもの「教育」を始めた、やむにやまれぬ理由【コソダテ進化論】

ボルネオ島の熱帯雨林で、長年オランウータンの研究をしていた、久世濃子さん。そんな久世さん自身が2児のママになり、見えてきたものとは?サルの研究を通して、「ヒトの子育て」を考える連載です。

ヒト以外のサルは「教育」をしない

「サルのお母さんは、子どもにどんなしつけをするのですか?」と質問をされたことがあります。

しかし、基本的に、ヒト以外のサルは「教育」をしません(注)。

サルのコドモは、どれが食べられる植物なのか、など生きていくのに必要な情報もすべて、「母親や他の個体の行動を見て、自分で試行錯誤して」学びます。お母さんや群れのオトナが「コレを食べなさい」と食物を与えたり、「それは食べちゃダメ!」としかることはありません。

離乳したコドモが、群れの上位のオトナが手に持っている食べ物をとろうとすれば、当然怒られます(追い払われたり、噛みつかれたりします)。でも、これは、オトナが「自分にとって、気に入らないことをされた!」と怒っているだけで、「コドモのためにしかっている」わけではありません。

サルのコドモは、オトナたちに「怒られる」ことで、やってはいけないことを学んでいきます。広い意味では、サルのオトナが怒ることも「しつけ」かもしれませんが、ヒトでいう「しつけ」は、子どものためを思って教え諭す行動ですよね?自分の感情にまかせて、子どもに対して怒りを爆発させるのは、「しつけ」ではないでしょう(といいつつ、私もよく感情的に娘を怒ってしまいますが……)。

狩りは、「教育」を必要とする難しい技術

実は、サル以外では、「教育」をする動物がいます。

主にシャチやミーアキャットなどの肉食動物です。狩りはとても難しい技術なので、オトナが教えてあげることが必要なのです。

私たちヒトが「教育」を行うのも、ヒトの祖先が「狩猟肉食をするサル」として、独自の進化の道を歩んできたためだろう、と言われています。

ヒトでは、オトナだけでなく、ちょっと年上の子どもたちも、年下の子たちにあれこれ教えようとしますよね?ヒトは、動物の中でもずば抜けて「教えること」が大好きな動物なのです。

(注)生物学での「教育」の定義は下記の3つの条件を満たすことだとされています。
・「生徒」の前で違う行動を見せる
・その結果として、生徒が確かに知識や技術を習得できる
・教えることが直ちにその個体の利益にはつながらない
この定義を満たす動物はとても少ないですが、いくつかの例が報告されています。興味のある方は下記の記事などを参考にして下さい。
ナショナルジオグラフィック「実はヒト以外に何かを「教える」動物はごくわずか、どんな動物?」

※この記事は、2011年4月~2013年3月に「つくば自然育児の会」会報に連載された「サル的子育て」に加筆修正したものです。

久世 濃子さん

1976年生まれ。2005年に東京工業大学生命理工学研究科博士課程を修了。博士(理学)、NPO法人日本オランウータン・リサーチセンター理事。著書に「オランウータン~森の哲人は子育ての達人」(東京大学出版会)、2021年度青少年読書感想文全国コンクール課題図書「オランウータンに会いたい」(あかね書房)など。

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