子どもの事故を防ぐための研究や講演を行なっている岡まゆみさんは、川で溺れていた小・中学生を助けに行った夫を亡くしました。夏に増える、子どもの水の事故を防ぐには?2児のママでもある岡まゆみさんに、気をつけるべきことを伺いました。
呼吸停止5分で蘇生率は25% 子どもは静かに溺れます
夏になると、プールや海、川に家族で出かける方もいるでしょう。今年は自宅で、ビニールプールやお風呂で子どもを遊ばせる家庭も多いかもしれませんね。そんな時、水の事故を防ぐために気をつけてほしいのは、とにかく「子どもから目を離さない」こと。
応急手当講習などでよく話される「ドリンカーの救命曲線」によると、呼吸停止から人工呼吸を始めるまでの時間が2分程度なら90%の確率で蘇生できますが、5分後だと25%まで蘇生のチャンスが減り、たとえ命は助かっても重大な後遺症が残ることが多いとわかっています。たった数分でも目を離すのは大変危険なのです。
最近はSNSでも話題になって有名になりましたが、「子どもは静かに溺れる」もの。おとなしく遊んでいると思っていたら、静かに沈んでいた…なんてことも。子どもは口と鼻がふさがれば溺れてしまうので、足首が浸かる程度の水深でも油断は禁物。自宅での水遊びでも、離れた場所ではなく、すぐ近くで見守ってくださいね。
浮き輪は万能ではありません 足入れタイプには特に注意
もし川で遊ぶのなら、入念に下調べをしましょう。旅先にきれいな川があれば入ってみたくなるものですが、地元の人が「ここでは飛び込まない」という場所で飛び込んだ観光客が事故に遭うケースが後を絶ちません。
プールや海で浮き輪で遊ぶのもいいのですが、空気が漏れたり抜け落ちたりする可能性もあり、万能ではないことに注意が必要です。特に、足入れタイプの浮き輪は、一度ひっくり返ると起き上がれない危険も。子どもが複数いる場合など、便利な部分もあるので、一概に「浮き輪はやめよう」とは言えないのですが、やはり目を離さないことが大切です。
ライフジャケットもおすすめですが、これから買うなら股下ベルトのあるタイプを。抱き上げた時に抜けてしまうことを防げます。
「自分や大切な人は事故に遭わない」という思い込み
8年前、私の夫は毎週のジョギング中に川で溺れていた小・中学生4人を見つけて助けに入り、川の深みにはまって命を落としました。また、救助された中学生1人も数日後には亡くなる結果に。残された私は5歳と2歳の子ども2人を抱えて途方に暮れ、生きる意味を探して大学院へ進学し、安全行動学を学んできました。最初の1年間は仕事を続けながら大学院へ通ったものの、子育てをしながらの研究と仕事はハードで、「全部が中途半端だ!」と感じ、仕事を辞めて研究に専念。子どもが寝ている間に修士論文を書き、何とか無事に卒業できました。「自分や大切な人は、事故になんて遭うはずがない」と誰もが思っています。私もそうでした。でも、大きな事故に遭う確率は宝くじに当たる確率よりもずっと高いのです。「いつか自分や家族が重篤な事故に遭うかもしれない」、そう考えて生活してください。
子ども安全研究所ひなどり
「チャイルドビジョン」を使った子どもの視野を学ぶ研修など、保護者向けの講演や保育者研修、小学校への出張授業など、具体的な「子どもの事故予防」の方法や、安全の大切さを伝える活動を行う。
https://www.hinadori.info